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在宅療養を経験されたご家族の声 T様(自宅で奥様を看取られたご主人)

「在宅介護もできますよ」医師からの言葉に耳を疑った。末期の病人を自宅で看取れるとは考えていなかったからだ。自分の母親は九年前地元の病院で亡くなった。見舞いの帰り、一緒に連れて帰ってと懇願するのを振り切って帰っていた。後ろ髪を引かれる想いとはこの事だろうなと思ったが、時折襲う呼吸困難の発作を見ていると何の医療器具もない自宅で看病するなどとんでもなく、また自分の母親が苦しむ姿から目を背けたいという気持ちもどこかにあった。その結果、真夜中に病院から容態急変の連絡を受けて向かった時には既に母親の命は途絶えていた。最期は自分の過ごした家で安らかに逝きたいとの願いを叶えられなくて後悔もしたが仕方ないと自分に言い聞かせた。

そして今度は自分の妻がガンになり病院で抗ガン治療を始めた。薬の効果が無くなってくると「緩和ケア」を勧められたが、延命治療を希望したので病院と治療法を変えて、力を増してくるガン細胞に抵抗を試みた。抗ガン治療と並行しての免疫治療、漢方薬治療等ささやかな抵抗も束の間、病気の進行は早く久留米市内の病院に見舞いに行く度痩せ細り、治療といっても点滴をするくらいで生きられる残りの月日を想像し始めていたそんな時、自宅で介護治療が出来ると医師から告げられた。「出来るならそうしたい」と速答して妻に話すと同じ思いだった。


事態は進み、病院の介護等のケアをする福祉士が手際よく今後の段取りを説明してくれて家族で看取る在宅介護の形が見えてきた。
数日後、病院の会議室で患者である妻も同席した家族と、この在宅介護の全般を計画するケアマネージャー、毎日自宅を訪問して看護と健康管理をしてくれる訪問看護師、実際に妻の病気の治療を担当してくれる地元の病院の先生、看護師さん達が集結してプロジェクトチームが出来上がっていた。事前にそれぞれの部署を選ぶ事も出来るし提供されたサービスに対しての不服申立ても出来ると契約書に書かれている。

社会福祉はここまで進んでいるのかと驚きと共に、これだけのプロが関わってくれるのであれば在宅介護も出来るだろうと根拠が出来て、母親を亡くした時の病院任せで死に目にもあえなかったトラウマみたいな不安が和らいだ。
久留米の病院から妻を退院させ、成人で社会人の娘二人と夫である自分の四人で未経験の「在宅介護」しながらの新生活がスタートした。ケアマネージャーのプランで事前にベット、簡易トイレ、車椅子等の生活用品はレンタルされておりスムーズに日常に近い生活に戻れた。
また、毎日訪問して妻の健康管理や身の回りのお世話や家族とのコミュニケーションを自然にしてくれる訪問看護師さんの献身的な行動は家族の介護の支えであり大切な時間になっていった。訪問看護師といってもやなぎ医院さんと連携しての医療的な看護も可能なので頼りになった。
週二回のやなぎ医院さんも、訪問以外で妻の病状で不安があればいつでも連絡すれば対応してくれて、孤立した家族だけの介護ではなく心にゆとりが出来た。これは大切な事だと思う。

自宅に引き取ってから三週間後に妻は亡くなったが、鳥の声で目覚め調子のいい日は花見や散歩を楽しんだりと、街の病院の一室に居ては不可能な事が出来て、妻の最期を娘達と看取る事が出来たのは幸運な事でした。何より一緒に居て一緒に過ごせる時間を共有出来た事に幸せを感じた。
最後に、今は自宅で家族の一員を家族で看取る事が難しい時代と言われているけれど、その気になれば不可能ではないと思う。大切なのは患者の意思を聞いてそれを現実にするために周りの人に相談する事です。自分ではたいした事は出来ないけど手を差しのべてくれる人はたくさんいるしそのための設備も整っている。大刀洗ののどかな自然は病を癒してくれるかも知れません。自分と娘たちは妻を在宅介護したとは思ってなく、お世話になった妻でありお母さんに少しだけ恩返しが出来たと考えていて、それを可能にしてくれた方々に対して感謝の念は忘れません。